Sustainable TOBA -Toba Chamber of Commerce and Industy-

2025.8.4

従業員満足の追求が気づきを生む。鳥羽国際ホテル総支配人の持続可能なホテル経営の考え方

従業員の気づきと挑戦が、社内文化を育む。

鳥羽市の老舗ホテル「鳥羽国際ホテル」では、海とヒトとのつながりから生まれる循環を大切にしながら、持続可能なホテル経営を実践しています。

ー「やらないことが一番の悪。まずはやってみる。もちろん、うまくいかないこともあります。」

伊勢志摩リゾートマネジメント株式会社 鳥羽国際ホテル総支配人の惣明福徳(以下、惣明総支配人)さんは話します。

伊勢海老の殻を活用した堆肥づくりや、地元ワイナリーと連携したブドウ栽培など、トライアンドエラーを恐れず挑戦を続ける姿勢には、従業員の気づきを形にする鳥羽国際ホテル独自の組織文化があります。サステナブルに通ずるヒトを起点とした哲学について、惣明総支配人にお話を伺いました。

資源の循環が生む、サステナブルな挑戦の軌跡

潮路亭で育つブドウの木

鳥羽国際ホテルでは2025年現在、伊勢美し国(うましくに)醸造所を運営する伊勢志摩ワイナリー株式会社と連携し、伊勢海老の殻や魚の骨などから食品残渣を活用した堆肥でブドウ栽培を始めました。ホテル敷地内では、鉢植えによるブドウの育成を試み、2026年の秋頃のホテルオリジナルのワインの完成を目指しています。

2025年7月時点、実ったブドウ
堆肥となっている伊勢海老の殻

ー惣明総支配人「もしかしたら、猿がブドウを食べに来るかもしれません。ダメになるかもしれないけれど、まずはやってみる。それが第一歩です。」

完璧を求めるより、まず一歩踏み出す。そんな姿勢が、鳥羽国際ホテルのサステナブルな取り組みを支えています。

藻場再生の取り組みの一環「ワカメの海中ツリー」の様子

鳥羽国際ホテルでは、2019年よりサステナブルな活動に取り組んでいます。一般社団法人 海っ子の森や鳥羽水産研究所と連携したワカメ養殖や藻場再生への挑戦や、脱プラスチック施策、食品端材を活用した再商品化など、取り組みは多岐にわたります。

チーズケーキディップ

鳥羽国際ホテルといえば、誰もが思い浮かべるのが名物チーズケーキ。そんなチーズケーキの端材を活用して生まれた「チーズケーキディップ」や「ロールパン」は、食品端材を再商品化した好例です。焼き損じなど見た目に難のあるチーズケーキを別のスイーツへと生まれ変わらせることで、年間約130万円分の食品ロスを削減しています。現在、生まれ変わったスイーツは予約を受け付けるほどの人気商品となっています。

2025年度に取り組む「循環型食品連鎖」のイメージ図

このような取り組みのきっかけとなったのは、親会社・三井不動産が2019年に掲げた「CO2排出量を40%削減する」という長期ビジョンでした。ビジョンの策定を受けて、鳥羽国際ホテルでサステナブルな活動が始動します。

ー惣明総支配人「そしたら、すぐにコロナが流行したんです。2020年5月中旬から約60日間は全館休業もしました。そんな状況下で何かをしようと色々と取り組む中で、SDGs活動を本格的にみんなで考えようと、社内で共有しました。」

そして、キックオフとなるSDGsアイデアコンテストがスタートしました。

従業員の主体性を育み、気づきを具現化する仕組みづくり

第5回 SDGsアイデアコンテスト2024の様子

鳥羽国際ホテルのサステナブルな取り組みは、従業員からの気づきと主体的なアイデアによって成り立っています。

毎年開催されている社内アイデアコンテストは2025年で6回目を迎えます。SDGsへの理解を深め、SDGs活動報告や各年度の新しい取り組みを発表する場を設けています。

NEMU RESORT リトリートイベントでの海岸清掃の様子

加えて、総支配人に直接届く提案制度では、記名式で年間約100件の提案が寄せられ、約3〜4割が採用に至ります。提案が採用された従業員には賞品を贈呈。寄せられた提案は採用・不採用に関わらず、必ず惣明総支配人のフィードバックがあり、次の改善や気づきにつながるサイクルができています。

提案制度では

  1. 従業員満足度の向上
  2. お客様満足度向上
  3. 売上向上

の3つの観点から提案されます。目安箱ではないため、自分本位の意見や誹謗中傷は受け付けられません。

提案制度のアイデア①毎月各1日限定「シュークリームデー」「プリンデー」

提案制度によって実現した事例として、浴衣の色を男女で分けずジェンダーレスな対応に変更したことや、エコバッグ持参でのポイント制度導入、食品端材を再商品化した「チーズケーキディップ」などが挙げられます。

提案制度のアイデア②三重の伝統文化体験 日永うちわ作り

ー惣明総支配人「何でそんな簡単なことを思いつかなかったんだろうね、ということが結構あるんですよ。すぐ、できたんじゃないの?と思う案もあります。気づきを与えてくれる一方で、まだまだ、気軽に言えないこともあるのかなと思っていますね。」

提案制度のアイデア③フード類の自動販売機の設置

2020年に始まった提案制度は、実は惣明総支配人の発案によるものです。導入から約5年が経った今も、惣明総支配人は一つひとつの提案に丁寧なフィードバックを欠かしません。「ちょっと大変なんです」と笑いながらも、スタッフ時代に思い描いていた理想の職場づくりを、着実にかたちにしています。

人を大切にすることが、持続可能なホテルの礎に

ー惣明総支配人「従業員満足度の向上なくしては、お客様満足度向上や売上向上はありえません。」

この言葉は、惣明総支配人が毎年の方針文にも必ず記すほど、経営の根幹をなす考え方です。

​​従業員が満足していなければ、お客様を満足させられるサービスができず、売上の向上にも繋がりません。全ては従業員満足から始まると惣明総支配人は考えています。提案制度は満足度向上を図るための手段の一つと捉えています。

2024年度 ファミリーパーティの様子

鳥羽国際ホテルでは従業員満足度を向上させる、さまざまな改善や仕組みが導入されています。研泊研食制度と呼ばれる自社やグループホテルでの宿泊体験制度や、家族を招いたファミリーパーティーの開催、そして従業員寮の全面改修など、ハードとソフトの両面から従業員の働く環境改善に取り組んでいます。

ご出身の味 広島焼きを振る舞う惣明総支配人

また、惣明総支配人自身は「自らが話しかけること」を意識し、現場との雑談からアイデアを拾う姿勢を大切にしています。結果、提案が生まれる空気を後押しし、チームの信頼関係が気づきを促し、小さな改善が積み重なって目に見える成果に繋がっています。

インバウンド観光客に向けた、鳥羽を拠点とした過ごし方提案

パールオーシャンテラスの様子

こうした鳥羽国際ホテルの取り組みは、インバウンド観光客にも着実に響いています。特に欧米やアジアからの観光客にとって、地域文化や食の背景にあるストーリーが体験価値となっています。

鳥羽国際ホテルに宿泊する海外観光客の特徴として、

・来日は7回目以上

・日本滞在期間は最低1週間

・2泊以上の連泊

が挙げられます。

ー惣明総支配人「現地を訪れて得た情報を元に、次の目的地を調べていたら1泊では短い。そんな観光スタイルから、最近、私たちは鳥羽を拠点にして色んな所へ行けますよ、という提案をしています。」

例えば、伊勢神宮は電車や車で約30分と近く、世界遺産 熊野古道は2時間あればアクセスできます。京都や大阪も2時間半です。鳥羽を拠点に1日は遠方の観光を楽しみ、もう1日は鳥羽市内を巡ります。

早朝のパールオーシャンテラスの様子

ー惣明総支配人「海女文化や真珠、景観、そして食といった魅力に加え、答志島を地元の方と歩きながらランチを楽しむといった日常の体験サービスもあります。鳥羽には、訪日リピーターにこそ響く価値がそろっています。」

インバウンド向けの提案の背景には、お客様の声を受け取る従業員一人ひとりの気づきにあります。気づきの積み重ねが、海外からの観光客の期待に応えるサービスを形にすることで、インバウンドの波を一過性で終わらせず、持続可能な観光の基盤を築いています。

従業員満足からはじまる、持続可能な観光の在り方

惣明総支配人が一貫して掲げてきたのは、「人を大切にすること」です。

従業員満足なくして、顧客満足も売上もないという信念から、「気づきと改善の文化」を鳥羽国際ホテルに根付かせています。

そして、「気づきと改善の文化」の延長線上に、地域との協働、観光客との新たな関係性づくりがあり、鳥羽発の持続可能な観光のかたちを育みます。

今、私たちにできることは何だろう?

問いのヒントの多くが、鳥羽の街で芽吹いています。

●鳥羽国際ホテル

〒517-0011 三重県鳥羽市鳥羽1丁目23−1

Webサイト:https://www.tobahotel.co.jp/

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