2025.12.17
地元の海から旬を届ける。蒸し伊勢海老の華月が紡ぐ持続可能な食文化
蒸し伊勢海老を中心に、地元の魚介を丁寧に届ける名店「伊勢海老 海鮮蒸し料理 華月(かげつ)」。座席数…

2026.2.16

日本有数の観光地である伊勢志摩・鳥羽エリア。数多くの宿泊施設や飲食店を、裏側から支え続ける代表的な企業に有限会社イヅミの存在があります。
タオル屋に始まり、消耗品・アメニティの卸業として知られてきた同社は現在、自らの存在意義を大きく変えようとしています。「清潔と快適のコーディネート業」を掲げて、オリジナル商品の開発から国の支援機関を巻き込んだ地域ブランディングまで、事業活動は多岐にわたっています。地域の卸問屋がなぜ今、幅広い事業を展開しているのでしょうか?

そこには、3代目社長の坂田清佳さん(以下、坂田社長)の、地域への深い愛着と激動の時代を生き抜くための確固たる戦略がありました。

鳥羽市に拠点を置く有限会社イヅミは、伊勢志摩鳥羽地域の旅館・ホテル、飲食店、観光施設などを主要な顧客としたBtoB企業です。 取り扱う商品はトイレットペーパーやラップ、洗剤といった日々のオペレーションに欠かせない「消耗品」が中心です。
例えば、ホテル客室に置かれる歯ブラシやタオルなどの「アメニティ類」など。また、近年では客室の価値を高めるためのデザイン性に優れた「備品類」の提案にも力を入れています。
しかし、イヅミを単なる「物を右から左へ流す卸会社」として捉えるのは正しくありません。坂田社長は自社の事業ドメインを「清潔と快適のコーディネート業」と定義しています。

ー坂田社長「清潔であることは、宿泊業や飲食業において当たり前の前提です。その上で、お客様がいかに快適に過ごせるか。私たちは単に商品を売るのではなく、空間の快適さをコーディネートし、施設様の価値を上げるお手伝いをしています。」
トラックで商品をただ運ぶだけではなく、地域の事業者が抱える「困りごと」を解決し、時にはプロとして率直な提案をする。イヅミは事業者にとって頼れるパートナーとなり、伊勢志摩地域を支えています。

ー坂田社長「私、ビビりなんですよ」
坂田社長は自身を分析します。そんな坂田社長の「慎重さ」こそが、イヅミの圧倒的な提案力の源泉です。

イヅミでは、メーカーの売り文句を鵜呑みにすることはありません。例えば、キッチンペーパー一つとっても、自社で4〜5社の商品を取り寄せ、実際に水と油を吸わせる比較実験を行います。「厚手だから良い」という見た目の印象に騙されず、データとして「薄くても吸水性が高い」という事実があれば、自信を持ってそれを顧客に勧めます。

ー坂田社長「自分が納得していないと、お客様に自信を持って提案できないんです。なぜA社ではなくB社なのか、根拠を明確に説明できなければプロとは言えません。」
時にはメーカーに対して、「御社の商品は吸水性が悪い」とデータをフィードバックします。このような徹底した検証姿勢によって、「イヅミさんが言うなら間違いない」という強固な信頼関係を築いています。

イヅミでは2024年に取引のある事業者向けにアンケートを実施しました。集計をしてみると、「安いから」という回答はなく、「対応が早いから」、「提案してくれるから」、「毎日来てくれるから」という言葉です。 当たり前のことを徹底し、プロとしての「目利き」を提供してきたイヅミ。日々の積み重ねによって、育まれてきた信頼こそが地域の事業者が必要としている価値であり、イヅミを次の時代へ導く力なのだと、坂田社長は確信しています。
ー坂田社長「どこに頼んでいいかわからない困りごとは、まずイヅミに電話してほしいんです。私たちが解決できなくても、地域には優秀な専門業者がたくさんいます。私たちがハブになって、適切な業者さんにつなぐ。それが私たちの役割だと思っています。」

坂田社長の環境への意識は、10歳の頃の原体験に根ざしています。伊勢道路の建設で木々が伐採される話を耳にし、「自然が壊される」と涙した幼少期の記憶です。
ー坂田社長「家業が『使って捨てるもの』を売る商売だということに、どこかで後ろめたさを感じていました。使ってからゴミになるまでの時間が短いものを販売している、という感覚はずっとありました。」

だからこそ、大人になった今、事業を通じて環境負荷を減らしたいという想いを人一倍強く持っていると話す坂田社長。しかし、そこにはイヅミ流の厳格なルールがあります。それは、「エコだからといって、快適さを犠牲にしてはならない」というルールです。

例えば、「植物由来」や「脱プラスチック」といった環境への配慮は重要な視点である一方で、イヅミでは使い心地や耐久性まで含めてこそ、商品価値だと考えています。環境に配慮した素材であっても、日常使いの中でストレスを感じてしまうものは採用しません。
「お客様に不快な思いをさせてまでエコを優先したくはない」と、坂田社長は話します。

その代わり、再生紙よりも環境負荷が低く、かつ食品に触れても安全な植林木パルプのタオルペーパーを推奨したり、質の良いアメニティを採用して「自宅にお持ち帰りいただき、長く使ってもらう」ためのタグを作成したりと、現実的で持続可能なSDGsを提案しています。 業界にはびこる「見せかけのエコ」を見抜き、本当に環境に良く、かつ使い心地の良いものだけを厳選する。イヅミの「清潔と快適のコーディネート業」としての揺るがない強固な姿勢があります。

イヅミの地域ブランディングを象徴する事例が、オリジナル開発した「伊勢志摩おしぼり」です。既製品の値上げとリニューアルに伴い、メーカーに提案・交渉して、海女さんのイラストと伊勢志摩のロゴが入った高品質な紙おしぼりを生み出しました。
ー坂田社長「鳥羽や志摩に来て、最初に食事をする時、おしぼりを見て『伊勢志摩に来たんだ』と感じてほしかったんです。伊勢志摩おしぼりは単なる手拭きではなく、旅の没入感を高めてくれます。」

伊勢志摩おしぼりの開発は自社の利益だけでなく、地域のブランド価値を高め、ひいては地域外の資本や商品から地元の市場を守ることにも繋がると坂田社長は語ります。値上げという避けて通れない壁を、あえて品質向上のチャンスに変えた提案は、多くのお客様の共感を得ました。

3代目となった当初、すべてを自分一人で抱え込んでいたと話す坂田社長。しかし、自身の出産・育児を機に物理的な時間の限界を感じ、初めて真剣に社内の「人」に目を向けるようになりました。そこで気づいたのは、イヅミには驚くほど優秀な人材が定着しているという事実でした。

土壌を作っていたのは、2代目である父親でした。「とにかく家族を大事にしろ。子供が熱を出したら仕事よりも家庭を最優先に」、そんな家族第一の徹底した姿勢が子育て中の女性たちにとって働きやすい環境として支持されました。結果として能力の高い育児中の女性が20年、30年と長く勤め続ける強固な企業体質となっていきます。
ー坂田社長「灯台下暗しでした。こんなに頼りになる人たちが周りにいたんだって。」

坂田社長はスタッフ一人ひとりの生活背景や得意分野を深く理解するため、1on1ミーティングなどを通じて対話を重ねました。大切にしたのは「生活の中に仕事がある(ワーク・イン・ライフ)」という考え方です。 個々の適性を見極め、仕事を任せてみると驚くような成果が返ってきました。「私には自信がありません」と尻込みしていたスタッフが、半年後にはその業務を完璧に仕上げてくるなど、隠れていた才能が次々と開花し始めました。

ー坂田社長「今の私の仕事は、売ることではなく、みんなの能力を見つけて、イヅミというチームの中でどう輝いてもらうかを考えることです。」
経営指針の共有なども奏功し、スタッフは「言われたことをやる」存在から「自ら考え提案する」チームへと着実に進化しています。数字にも成果が表れ始めた今、イヅミは組織として新たな強さを手に入れています。

さらに、鳥羽商工会議所とINPIT(独立行政法人工業所有権情報・研修館)の支援を受け、小ロット対応の高級アメニティ販売事業「&AMUSE(アミューズ)」を立ち上げました。&AMUSEは、本来なら大口発注でしか扱われない商品を、小ロットで発送できるサービスです。多様な商品を取り扱うイヅミだからこそ生まれた工夫です。

ターゲットはあえて有名観光地を外し、鳥羽と似た課題を持つ日本海側の小規模高級旅館などに絞りました。実施したのは、サンプル送付と電話営業という坂田社長の得意分野。結果、県外からの注文がコンスタントに入り、商圏は全国へと広がっています。&AMUSE事業は支援機関と地域企業の理想的な連携モデルの成功事例として、全国的にも注目されています。

イヅミの挑戦は続きます。現在、&AMUSE事業で縁を得たINPITとの連携事業に採択され、専門家と共に1年半をかけた大規模なブランディングプロジェクトを進行させています。 目指すのは、物の販売にとどまらない「コト売り」へのシフトです。
具体的な新たな事業構想としては、衛生検査や定期メンテナンスによる現状把握、リニューアル時の空間コーディネート、そして宿泊施設のコンセプト設計まで踏み込んだパートナー伴走業務です。
ー坂田社長「お宿が売りたいものと、宿泊客が求めているものにズレているかもしれないと感じることがあります。客観的な視点で補正して、旅館のコンセプトや誰に何を届けるべきかを一緒に考えるパートナーになっていきたいです。」
これまで寄せられる相談に応えてきた経験を、改めて事業として形にすること。それはイヅミにとって継続性を高めると同時に、地域の施設と時代を生き残るための「武器」を共に磨き続ける取り組みでもあります。

インタビューの最後、坂田社長は鳥羽という地域への危機感と希望を口にしました。
ー坂田社長「鳥羽は恵まれすぎています。何もしなくてもお客様が来てくれていた時代が長かった。でも、これからは『街歩き』が楽しい地域にしていかないと、飽きられてしまうと思っています。」

イベントによる一時的な賑わいだけでなく、日常的に人が回遊する仕組みが必要です。空き店舗を活用し、地域の資源を活かした魅力的な店舗を点在させたい。坂田社長の頭の中には、すでに具体的な構想があります。

地域のあらゆる事業者と接点を持つイヅミ。おしぼり一本から始まった令和の変革は、今、地域全体を巻き込む大きなうねりになろうとしています。「鳥羽に泊まること自体が目的になる街にしたい」 と語る坂田社長の目には、10年後の伊勢志摩の景色が映っています。

●有限会社イヅミ
〒517-0011 三重県鳥羽市鳥羽4丁目18−33
公式サイト:https://www.towelya-idumi.com/