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2024.6.26
鳥羽市には市立水産研究所があり、大きく分けて、藻類増殖に関する研究・海域の観測・学校等で行われる海洋教育への協力を行っています。
水産研究所で働く岩尾博士は「海藻博士」と地元で呼ばれる海藻の専門家です。激しい海の環境変化に対し、専門家の立場から、漁協や他の水産研究所、行政水産部門などと頻繁に連携し、鳥羽市の漁業や海洋環境の現状を調査・把握し、漁業者や海の博物館、三重県水産研究所などとともに海の環境変化への対応を模索し、藻場再生などに取り組んでいます。
また、学生や興味のある社会人団体などに対してもアマモの植え付けや、海の現状に関するセミナー、海藻に関する資料や海藻カードを作成するなど、海洋教育・啓蒙活動にも取り組んできました。
これまで10年間、生産者や学生が個別に実施する藻場再生などの取り組みを支援してきましたが、個別の取り組みだけでは、大きな成果につながらなかったり、継続が難しかったりと、課題の解決にまでは至らないことが多くあることから、関係者だけでなくもっと多くの人が連携する方法を模索しています。
岩尾博士のインタビュー
たとえば、漁業者・生産者にとって「海の環境変化によって今まで獲れていた魚種が獲れなくなってきた」という課題があって、宿泊施設にとっては「鳥羽の海産物を使った料理が安定的に出せない」ことが課題であり、アクティビティ事業者は、エコツアーに参加するため鳥羽を訪れるお客様に活気ある市場の様子を見せたいが、「日によって水揚げがない日があり、ツアーが催行できない」という課題があるとします。
それらの課題の根本は「今までは多様な海産物が、いつもたくさん獲れたがいまは獲れない」という同じ課題です。つまり、漁業の課題は漁師や漁業組合が何とかする他人事ではなく、まわりまわって、観光関係者にとっても自分事であるということです。
これまで個別の取り組みをサポートしてきて、もっと横のつながりや、お互いの困りごとを共有して、一緒に考えることで、同業者だけで話し合っていては思いつかないアイデアや新しい考え方がでてくるんじゃないかなと思い始めました。
「藻場再生」という課題に対しても、原因の一つは海底にヘドロが蓄積している事や海水温が上がって南の海にいる海藻を食べる魚が増えていることなど複数の要因が考えられます。アマモの苗を植えて終わりじゃなくて、経過観察してどうしてここでは育たないんだろうとか、他の地域で成功したやり方を取り入れてみるとか、そもそもこんな活動をやってるよということを、たくさんの人に知ってもらうことで、海に流れ込む水を変えられないかなど様々なアプロ―チがあります。
伊勢市のある高校は、SDGs Quest未来甲子園というコンテストで取り組むテーマを「伊勢湾を復活させたい」とし、藻場再生に取り組む団体・個人を取材しSNSで発信しようとしています。
三重大学大学院に通う鳥羽市出身の学生も藻場再生活動をみんなが自分事にするにはどうすればいいかをテーマに研究をはじめました。 だれもが、1人では解決できない課題をみんなで話し合い、知恵を出し合うシステムを作りたい。それぞれの意欲と知恵をつなぎ合わせて、本当に変化をもたらす活動、もしくは課題を解決する活動に取り組んで持続できるシステムにしていくことを、これからの鳥羽市水産研究所の役割の新機軸としていきたいと考えています。
これまで岩尾博士が活動してきた10年間の取り組みにより、生産者、行政、教育関係者、観光関係者とのつながりができ、海の環境変化に興味関心がある組織、団体、個人との人脈も広がってきており、まずは小さくとも連携して課題に取り組む素地が出来つつあります。
専門家、生産者、学生など、海の環境に関する様々な情報があつまる鳥羽市水産研究所だからこそ、情報のハブとなり鳥羽の持続可能性を高めることに期待します。
新しい発想やプランをお持ちの方大歓迎、知恵を貸してほしいとのことですので、興味があれば、ぜひ鳥羽市水産研究所を訪れてください。
鳥羽市水産研究所の活動
・種苗生産
水産研究所では、主に黒ノリ、ワカメ等の種苗生産を行っています。種苗生産はもともと漁業者が閑散期に行う作業でしたが、漁業者の高齢化や若手への承継の難しさから、漁業者の経営サポートとして、種苗を生産し販売しています。
・海洋調査
水産研究所では、1971年から、小浜漁港外側、水深50cm程度の海水を採取して水温、比重、塩分ppt、プランクトン数の定点観測をしています。また、令和元年度に発生した養殖カキの大量へい死を受け、カキ養殖漁場での海域環境データを把握、分析し、生産者や水産関係者が海域の状況を共有することで、漁業活動における不安感の軽減と、持続可能なカキ養殖漁場の在り方を探るため、カキ養殖漁場環境モニタリング調査を実施しています。
・海洋教育
幼小中学生や学生を対象に海や海の生物、ヒトを含む生物の暮らしと環境について学ぶプログラムやセミナーを実施しています。また、大学生・大学院生や社会人に向けて鳥羽地域を代表する水産養殖業の概要や課題、海域環境の変化やそのとらえ方についての講義、議論なども実施しています。
1977年生まれ、三重生まれの大阪育ち。三重大学大学院生物資源学研究科博士後期課程単位取得退学後、2011年学位を取得し、鳥羽市水産研究所に就職。養殖用わかめ、黒のり種苗の生産管理、海藻植生のモニタリングや海洋教育などを担う。