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三重県で初めて「SDGs認証制度 サクラクオリティグリーン」を取得した季さらグループは、地元とのつながりを大切にしながら、持続可能な観光地づくりを推進しています。
木造建築へのこだわりや次世代建材「CLT」の活用、地元産食材を使った料理の提供など、地域資源を最大限に活かした取り組みは、地域全体の発展と共生を目指す姿勢の表れです。その背景には、観光業が直面する環境や、資源の課題に対する強い危機感と持続可能な未来への挑戦があります。
今回は、「季さらグループ」を運営する季さらホテル&リゾーツ株式会社の代表取締役・上村領佑さんにお話を伺い、詳しい取り組みと未来への想いをお聞きしました。
懐古ロマンの宿季さらは2024年9月に、サクラクオリティーグリーンの「3御衣黄ザクラ」認証を取得しました。
「サクラクオリティ」は、訪日外国人観光客に安心・安全・快適なサービスを提供し、日本の観光地や宿泊施設の品質向上を目的とした認証制度です。そして「サクラクオリティグリーン」はSDGsに特化した品質保証制度で、環境や地域社会への配慮、持続可能な企業統治に関する基準に基づき、SDGsの17ゴールに沿った172項目によって5段階で評価されます。
ー上村社長「取得のために特に何かに取り組んだわけではありません。元々取り組んでいたことが評価されました。」
など、持続可能な観光地づくりに欠かせない、季さらグループの日々の取り組みが認証基準を満たす内容として評価されました。認証をきっかけにして、これまでの取り組みをさらに深める良い機会にもなっていると上村社長は話します。
ー上村社長「まちづくりに関わりながら事業を営んでいる点が評価されました。なかなか都会のホテルでは難しい部分もありますが、地方の観光地ならではの取り組みが強みとして認められたのではないかと考えています。」
サクラクオリティーグリーンでは、旅館組合や商工会議所での地域活動が評価基準に入っています。宿泊・観光業を営む事業者にとって、自社だけに留まらず、地域メンバーの一員として事業を推進していくことは必要不可欠です。
ー上村社長「ただ宿を建てればお客様が来るわけではありません。どのような施設を作るのか、そして作った後に地域とどのように共存しながら事業を営んでいくのかは、地方において特に考えなければならない重要な課題です。」
宿泊施設のサービスや体験を通じて、お客様に地域の文化や自然、それぞれの事業者が積み重ねてきた取り組みをお伝えする。お客様がそんなストーリーを感じ受け取ることで、地域の価値の再発見に繋がり、観光地としての魅力をさらに引き出します。
季さらグループは、木造の建物にこだわっています。その理由は、お客様を包み込む木の温かみと、末永く付き合える地元の大工さんに依頼できる点にあります。地域の職人とのつながりを大切にしながら、木造建築ならではの魅力を最大限に活かした建物づくりを続けています。
2022年4月に新しくオープンした「季さらOneness(ワンネス)」では、木材を何層にも交差させて貼り合わせたパネル状の建材「CLT(Cross-Laminated Timber)」が使用されています。本来であれば捨てられてしまう木材を高密度に圧着することで軽量でありながら高強度・高断熱を実現し、環境に配慮した次世代建材として注目を集めています。
地元の事業者の紹介でCLTを知った上村社長は、「季さらOneness(ワンネス)」での採用を決断しました。建物内部の壁や天井は全てCLT、それ以外の材木は全て三重県産のものを使用しています。「季さらOneness(ワンネス)」は施工会社社屋を除けば、CLTを使った日本初の連棟施設です。
さらに、「季さらOneness(ワンネス)」は、周囲の自然環境に配慮するため、斜面をそのまま残し、土砂を除いたり盛ったりする造成を一切行っていません。鳥羽市全域が伊勢志摩国立公園内に位置するため、土地との共生を念頭に置いた開発が進められました。
ー上村社長「改装計画の中には地元の木材の使用や改装に込められたストーリー、季さらグループが長い年月をかけて培ってきた歴史的な価値が反映されています。また、事業者との繋がりや使用する食材についても同様に評価されており、認証の際にはこれらの点もよく見ていただきました。」
近年急速に地元の海の環境が悪化してきています。地元で取れる伊勢海老やアワビの供給が著しく減少し、特にアワビはほとんど地元で手に入らなくなってきています。このような状況が続けば、地域の魅力が失われるという強い危機感を抱いています。
季さらOneness—ワンネス—では、野菜やお肉の約9割は三重県産の食材を使った料理を提供しています。また地元の生産者と連携し、松阪牛に代わる新しいブランド牛「おいせうし」を取り入れるなど、地域の新たな魅力を発信しています。
ー上村社長「ただ、地元の食材を使うことだけを目的にはせず、お客様に満足していただくことを何よりも大切にしています。」
季さらグループでは、品質にこだわりながら、地元食材を優先的に活用しています。松阪市より南を第1の基準にし、そこで見つからない場合は三重県内、全国、世界と調達範囲を広げる柔軟な姿勢を持っています。こうした取り組みによって、旅行で訪れた土地でしか味わえない食材を活かした美味しい料理を提供し、地域の価値を守ることに繋げています。
そして何より、お客様にそんな地域の価値をお伝えするのが、私たちの役割だと話します。
サクラクオリティグリーンの認証取得は、地域の観光や宿泊業の持続・発展に向けた大切な第一歩です。上村社長は、地域全体が共通の目標に向かい、さまざまな団体が連携して取り組むことの重要性を強調しています。
現在、観光協会や旅館組合、その他の団体がそれぞれの目標に向かって個別に活動しているものの、上村社長は相互の連携が十分に進んでいない点を課題に感じています。
ー上村社長「近年の食材や環境の課題に対して、一事業者だけでは大きな影響を与えることはできません。だからこそ、さまざまな事業者と連携し、取り組みを進めていくことに力を入れたいと考えています。さらに、団体間の連携を深め、共通の目標に向けて協力しながら進んでいきたいです。」
地元食材の取り扱いに関しても、サクラクオリティグリーンの認証では、自社だけでなく取引先がどのように食材や商品を仕入れ・製造しているかも評価対象になります。少なくなった食材が地元で消費されず、地元外の事業者に高値で買われることで、さらに価格が高騰するという悪循環に陥っています。結果、地元食材の活用に取り組めない事業者も多い現実があります。
ー上村社長「価値の高いサービスを提供できる事業者が、地域の持続や発展を見据えた視点を持ち、積極的に地元産品を採用することで、地域産品に投資する事業者がさらに増えます。その結果、生産者も地元に食材を残そうとする意識が高まるはずです。」
地方と都会では状況が異なるため、それぞれの課題を理解し、その地域に合った解決策を進めることが大切になります。また、観光・宿泊業者や地域の団体が協力して、地元産品の価値を高める取り組みは、持続可能な観光地を築いていく上で重要な鍵となります。
●季さらホテル&リゾーツ株式会社
●懐古ロマンの宿 季さら
●季さら別邸 刻~TOKI~
●季さらOneness(ワンネス)