鳥羽市の木、やまとたちばなとは?

倭橘(やまとたちばな、学名:シトラスタチバナ citrus tachibana)は、通称橘と呼ばれるミカン科の植物です。ミカンの仲間のことを柑橘と呼びますが、この柑橘には橘の字が当てられています。

 花はミカンと同じ5弁の白い花びらで、香りはネロリ(オレンジの花から採れる精油)に似ていますがより清楚な雰囲気の芳香です。果実は扁平でミカンよりもやや黄色い感じで3〜4センチほどの大きさです。葉の香りも大変すばらしく、ちょっと揉んで嗅ぎますと幸せな気分になることでしょう。

 さまざまな柑橘のなかで、『やまとたちばな』(citrus tachibana)と沖縄のシークァーシーだけが日本原産の柑橘種であることが、農水省果樹試験場カンキツ部遺伝資源研究室(静岡県清水市)の研究者らの研究結果から明らかになりました。

 鳥羽市答志島の桃取地区には県の天然記念物に指定されたものがあります。

 このように橘は野生では国内唯一の柑橘類ですが、全国的に姿を消しつつあり、環境省のレッドデータブックで絶滅危種に指定されています。

昭和44年11月1日、鳥羽市の木に制定されました。


答志島のやまとたちばな やまとたちばなの実 やまとたちばなの花
神話に登場する永遠に香る木

 橘は、古来より大和の国日本において大切にされてきた聖木で、『日本書紀』や『古事記』、『万葉集』では、「非時香果( ときじくのかぐのこのみ)」つまり、永遠に香っている果実と表現されていました。

 『日本書紀』によると垂仁天皇の勅命により、田道間守(たじまもり)が、常世の国(とこよのくに:エデンの園のような楽園)から永遠に香る果実=橘を持ち帰ったと記されています。

 古代のフルーツはデザートつまりお菓子の感覚であったからか、田道間守はお菓子の神様として祀られるようになりました。


お雛様の木

 お雛様の雛壇には、向かって左に橘、右に桜が置かれています。もともと雛人形は、天皇・皇后様のお姿に似せてつくられたものだと言われております。
 京都御所の紫宸殿の前庭にある右近の橘、左近の桜がありますが、これを真似たものでありましょう。

女神の象徴としての橘

 やはり『日本書紀』や『古事記』で、日本武尊(やまとたけるのみこと)の蝦夷地東征のおり、相模から上総に渡ろうとして暴風が起こり、その海神の怒りを鎮めるために弟橘媛が入水した話はよく知られております。ですから弟橘媛をお祀りした神社は、現在でも海の近くに多くあります。橘もそうしたことからか海辺に多く自生しております。
お菓子の神様「田道間守公像」 橘本神社蔵